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** 文化浴の森 情報便 **

平成30年5月12日(土)第60号

* 思わず行ってみたくなる♪文化浴情報

世界中からの人がごった返す嵐山ですが、ここはオンシーズンでも、昔と変わらずのどか。

私にとっては幼い頃のキラキラの思い出が詰まった、心のふるさと。 静かで雄大なこの空間が、ゆっくりと思い出させてくれる。

//bunkayoku.com/point/2018/04/-0083.html

* 身も心もイキイキ!文化浴&ウォーキングコラム

■装飾文様はパントマイム

文化浴案内人として、文化財全般、あんな道こんな道、隠れ名店など・・・様々な解説をさせて頂いていますが、あえて私の専門分野をいいますと、社寺建造物の美術装飾。古建築の塗装や装飾です。今でいう外壁アートやインテリア装飾になります。

現代のそれらは、センスがいい、カッコいい、可愛いといった基準でデザインされることが多いと思いますが、昔の装飾は違います。

特に社寺空間に用いられるデザインは、人のためのみならず、神仏への捧げものとして描かれていますから、思い入れが深く、意味が深い。しかし、時が経った今、その意味がわからなく、消えつつあるものも少なくありません。

そこで昔への謎が広がり・・・何故そこにそれが描かれているのか?この飾りとこの場との因果関係は何なのか?じっと見つめていると・・・古人の心が見え隠れし始めます。

そして、おもむろにスマホで調べる・・・と、その時点でオオ~~ッと分かることもありますが、表面的な情報しか得られないことも多々。

謎を抱えたまま・・・ある時ふと、全く関係のない事柄から、謎解きのヒントが見えてくる時が、一番面白いのです!

そう、装飾文様は、まるでパントマイム。謎解きタイムに知的好奇心が触発され、面白さの神髄に迫ることができるのです。

■葵のご紋

例えば二葉葵。

来週の15日は葵祭。下鴨、上賀茂両神社のお祭です。総勢500名を越える人が平安絵巻さながらに、京都市中を優雅に練り歩く京都最古のお祭。

賀茂社と同じく、京都最古の松尾大社の神紋も二葉葵。「この紋所が目に入らぬか~!」でお馴染みの徳川家の家紋も二葉葵。

古来、二葉葵は五穀豊穣の象徴とされてきました。順調な収穫を祈り、祭の行列にも葵の葉を飾りたてて巡行します。

五穀とは時代や地域によっても変わりますが、米・麦・粟・キビ・豆を表すのが一般的です。

なぜ?

山地の林下に生える多年草の二葉葵が、なぜ、五穀豊穣の象徴なの?

なぜ?

三穀や八穀でなくて、なぜ、五穀なの?そんな謎が湧いてきます・・・

五穀と二葉葵、そして京都の古社寺との因果関係がよくわからぬままでした。しかし最近ふらっと入った町角のカフェで目にした冊子に、その謎を解く鍵を見つけた気がしたのです。

■焼畑農業

現代では農業というと水田と畑作のみが重視され、焼畑農業は殆ど語られてこなかったのですが、実はこの焼畑、全国殆どの山間部に広く分布していたようです。古くは縄文時代から行われ、近世でも全国に24万ヘクタールも焼畑面積はあったそうなのです。しかし昭和30年代にはほとんど姿を消しました。

焼畑農業は、山の草木を切って枯らしてから焼き、その焼き跡の灰を肥料に作物を栽培する方法で、焼いた初年から2年目、3年目とそれぞれに適した作物に変えながら、おおよそ4~5年くらいを一区切りとして終えます。

その後は再び草木の生えるままに放置して自然の山に戻し、地力の回復した10~20年後再び焼畑として用いるという、何世代にもわたる営みです。

基本的に水田や畑作といった灌漑農業は、人間が完全にコントロールする手法ですが、対する焼畑は、作物を上手くローテーションさせて、人間が自然に参加していく農耕法なのです。

■二葉葵の謎解き

そこで、あくまでも私の自論ですが、4~5年の焼畑農業ローテーションに、五穀が見えてきたのです。

五穀の種類は地方によって微妙に違うと言います。それも畑作と因果関係があるならば、地方によって作物は違っていても当然で、理にかなっています。

山際に鎮座する京都最古の松尾大社、そして上賀茂神社。灌漑農業以前からその周辺で焼畑農業をしていたかどうかは、私にとってこれからのフィールドワーク課題ですが、山地の林下に生える多年草、二葉葵が、焼畑農業とペアになって見えてくる気がするのです。焼畑のために切って枯らす草木の中に、二葉葵があってもおかしくありません。

もしかすると、生命力の強い二葉葵は、焼き尽くした後でさえも、日陰でさえも、素直にすっくと、可愛い二葉を古人に見せてくれたのかもしれません。その生き様に願いを託し、焼き尽くすことに敬意をはらい、古人が五穀豊穣を祈った情景が浮かんでくるようなのです。

もしも何かご存知の方がいらっしゃったら、ぜひお教え下さ~~い\( 'ω')/

■これからの日本人の生き方

最後に、焼畑農業の存在を気付かせてくれた冊子「龍谷 2016 NO.82」の中の対談文が、とてもよい内容だったので、一部ご紹介しておきます。

霊長類研究者であり京都大学総長の山極壽一氏と近年新設された龍谷大学農学部・学部長の末原達郎氏の対談です。

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山極:いま、日本人の生き方について、戦後三度目の新しい波が来ている気がしているんですよ。第一波はアメリカ文化を夢見た70~80年代の高度経済成長期。次が日本の伝統や古い調度品が見直された80~90年代。そして21世紀になって、今度は暮らしを総合的に再検討する波が来ている。和食を文化遺産にしたり、農業を見直したりというのもその一環だと捉えています。

末原:実はこの農学部への反響はとてもよく、たしかに波を感じます。少し広く言うと文明の転換点にさしかかっている。それはやはり現在の生活や社会への疑問、危機感からきているのでしょう。

山極:この機械文明のなかで、生活に密着した自然との営みが人間の精神的な支えをもう一度回復してくれることへの期待があるわけです。AIなど技術の飛躍的進化の反動として、振り子が両極端に大きく揺れているのですね。

日本は経済大国と言われながら、食料自給率が40%に満たない。しかも人口は減っていく。危機的状況は深刻です。そのときに、末原さんが言った焼畑農業や「講」のような、共同体的な社会のあり方がもう一度復活してこないといけないのですが、機械化、効率化、経済化が行きすぎると、そのときにやるべき作業が残っていない。せめて身体を使って通じ合っていないと、人間がつくりあげてきた社会性は消失してしまうと思う。

末原:今は難しい時代ですが、逆に変化のきざしもある。我々の時代も別の意味で危機的な状況があり、そこで既存の枠組みを突破する新しいチャレンジができた。今もそういう時代で、今後ますます開拓力が必要とされていくでしょう。若い人には周囲に惑わされず、思い切ってチャレンジをしていってほしいですね。

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5月は田植えの時期。新緑や、いにしえの装飾に文化浴して、遥か彼方に透けて見える文化から、過去・現在・未来の季節を・・・感じていたいと思う。

 

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◇ 発行・編集:(一社)文化浴の森 澤野ともえ

 

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