【この記事のポイント】
・江戸時代から続く庄屋屋敷・長谷川家住宅の魅力を紹介
・農家住宅でありながら京町家の風情が感じられる建築美
・水彩画家・長谷川良雄さんのギャラリーと清之進さんの絵巻に感動
・庄屋さんの暮らしぶりが垣間見える知恵と粋が詰まった文化財
280年続く庄屋屋敷「長谷川家住宅」へ
6月17日(火)、文化浴大学では東九条にひっそり佇む長谷川家住宅を訪ねて、「南極の秘宝」と題した現地講座を開かせていただきました。
江戸時代から280年続くこの庄屋さんのお屋敷は、東九条を代表する大地主さんのお住まいで、今も、この地の歴史と文化をしずかに語り継ぐ文化財です。
今回はご当主のナツさんと、NPO法人古材文化の会の方が、とても丁寧にご案内してくださいました。
寛保二(1742)年に建てられてから、平成の大修復を経て、今は「歴史・文化・交流の家」として生まれ変わっています。

農家なのに町家風情?門をくぐれば宝の玉手箱
門をくぐるとすぐに目を引くんが、農家住宅やのに、虫籠窓や座敷格子といった京町家の風情。お屋敷好きにはたまりません。

土間に上がらせてもろて、見上げると、立派な梁組がどーん!
おくどさんも見どころです。昔の知恵が、隅々まで息づいていて、思わず台所に長居してしまいそうでした。
土間は昭和から洋間にリフォームしてはったんやけど、明治の絵図を頼りに元の姿に戻さはったそうです。
良雄さんのやさしい京都と、清之進少年の熱意が宿る絵巻
二階へは、これまた珍しい箱階段を登って行きます。箱階段とは、階段と収納を兼ねた家具のこと。

農家さんのお宅にはなかなか無いんやそうで、これも町家大工さんの影響とか。お屋敷の中に、京の粋がちょこちょこ忍んでる感じが、京都近郊農家ならではの魅力ですね。
二階は、ご当主ナツさんのお父さま、水彩画家の長谷川良雄さんのギャラリーになってます。明治、大正、昭和のころの京都の景色を、なんともやさしい色合いで描いてはりますねん。

下鴨神社・糺の森や伏見・高瀬川沿い、庭の草花、近所の小道…そうそう、川端康成や谷崎潤一郎、森鴎外…近代の文豪たちが目にしたであろう京都の風景がひろがっていて、まるで小説の中にふわっと迷い込んだ気分になりましたよ。
ちょうどチューブ入りの水彩絵の具が広まった頃で、写生がブームになったんですって。良雄さんはその先駆け。外でもスケッチができるって。
ほんで感動もひとしおやったんが、良雄さんのお父さん、清之進さんが数え年13歳のときに描かはった絵巻物。

元治元年の東九条を、会津藩の軍勢が隊列を組んで進む様子。びっしりと198名の一人一人の顔まで描き分けられているんです。

数えで13歳やから、実際11歳くらいですよ!すごくないですか?まさに少年の一途な熱意を感じました。
屋敷に詰まる、先人の知恵と洒落心
屋敷のあちこちにはセンスが光るお宝が散りばめられています。

布袋さんの引き手があったり、輸入の地球儀があったり。

長谷川家住宅は、庄屋さんの建物の立派さだけやなく、暮らしぶりまで垣間見える秘宝でした。ここは、文化の香りと知恵、お洒落心が隅々にまで染み込んだ世界。

ご参加くださった皆さんからは、「庄屋さんの豪邸にお宝ざっくざくで、目も心も潤いました」「京町家とはまた違う農家住宅の良さに触れられておもしろかった」「私の育った上賀茂も、近所の農家さんの家は箱階段や土間にはおくどさんが沢山あったので、懐かしい思いをいたしました」「個人的には格子とすりガラスが素敵でした」と、嬉しいお声をたくさんいただきました。
次回は『鉾町の秘宝』へ、どうぞお楽しみに
長谷川家住宅は、地域の記憶と暮らしの知恵を、静かに伝えてくれる、ほんまもんの『(京の)南極の秘宝』です。
次回の現地講座は『鉾町の秘宝』。ふだん目にすることのないこの時期だけのお宝を、ゆっくり一緒に味わいに参りましょう。初めての方も、どうぞお気楽にお越しくださいね。
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